自己のとらえ方には2つの種類があります。
① 自分を過去の経験から捉える =物語としての自己
② 今この瞬間の経験から捉える =経験としての自己
マインドフルネスのトレーニングによって、経験としての自己に関わる脳機能が変化することが示されています。
方法
研究参加者をMBSR(Mindfulness Based Stress reduction)プログラムに参加する群と、参加しない群にランダムに振り分けて、物語としての自己、経験としての自己に関連する脳機能をfMRIを使って検討。
<fMRI課題>
「自信」、「憂鬱」などのパーソナリティに関連する言葉に対して以下の2つの方法で対応してもらう。
物語としての自己 →提示された言葉が自分にとってどういう意味があるかを考える。頭に浮かぶ一連の思考につかまって考え続ける。
経験としての自己 →思考、感情、体の感覚などの一瞬一瞬の変化に気づきを向ける。特定の思考にとらわれていたことに気付いたら、注意を優しく今この瞬間の経験に戻す。
結果
・ 物語としての自己に注意を向けている時、背内側前頭前野、腹内側前頭前野、後部帯状皮質が賦活

VMPFC: 腹内側前頭前野
PCC: 後部帯状皮質
・経験としての自己に注意を向けている時、物語としての自己で賦活していた領域の活動が、マインドフルネストレーニングを受けた群で大きく低下。
・経験としての自己に注意を向けている時、島(Insula)、体性感覚野などの活動がマインドフルネストレーニングを受けた群で大きく上昇。

Insula: 島
IPL: 下頭頂小葉
SII: 二次体性感覚野
考察
物語としての自己に注意が向かっている時に賦活が見られた領域はDMN (Default Mode Network)に属する領域。DMNは目の前のことと関係のないことを考えている時に活動上昇が認められることで知られている。この研究で賦活が示された領域(背内側前頭前野、腹内側前頭前野、後部帯状皮質)は、特に自己に関連する思考(self-refferencial processing)に関わっていることが多くの先行研究から示されえている。
経験としての自己に注意を向けている時、マインドフルネストレーニング群で物語としての自己に関連していた脳領域の活動低下に加えて、島、体性感覚野といった内受容感覚(体の中の感覚)、外受容感覚(五感による感覚情報)のインプットに関わる領域の活動上昇が認められた。
→物語としての自己と経験としての自己はそれぞれ異なる神経基盤を持っており、マインドフルネストレーニングによって、この2つの自己に関連する認知プロセスを分離することができることを示唆。
出典:Attending to the present: mindfulness meditation reveals distinct neural modes of self-reference